「――――そうですか。ついに」

 

 全面を白で統一された部屋の真ん中。

 ピアノを前に座った彼女がポツリと零した。

 

 天井を仰ぎ見るその表情は憂い。

 彼女はもう、何かを悟っている。

 

 私にはそれが何か分からないが、中枢にいた彼女には、今の状態だけで事の行く末が見えているかのよう。

 

「“黒の黎明”か。或いは“白の暗澹”か」

 

 どちらが成っても、今の世界は終わるだろう。

 そうならないための手も打つには打ったが……。

 

「やはり、祈るしかないのでしょうか……」

 

彼女の憂いがうつったのか、私の声もトーンが落ちる。

 

「そうですね。けれど……」

 

 彼女が何かを言いかけて止める。

 鍵盤を撫でていた手が虚空を移ろい、胸元に収まる。

 

「それでも私は、彼と彼女を信じています」

 

「……そう、願いたいものですね」

 

 言葉は止み、それが合図となった。

 弓を持つ手に力を込める。

 彼女が流麗な手つきで鍵盤を弾く。

 

 奏でられるのは絶望か、はたまた希望なのか。

 G線に触れるまでの間隙に落ちた“シ”の音だけでは、私には判別できそうもなかった。





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