Movement‐1

 

 ♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪〜〜〜〜

 

 八十八の黒白鍵から紡がれる音。それが誰かのための調べであることは明白だった。

 だって、ピアノの前には黒い棺が置いてあったから。

 

 ♪〜♪〜♪〜〜〜〜♪

 

 けれど、それが誰のためのモノかは分からなかった。

 だって、その棺には誰も入ってなかったから。

 

 〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜♪〜

 

 それなのにピアノは歌い続ける。

 弾き手の想いを受け止めて。

 

 ♪〜〜♪〜〜♪〜♪〜〜〜〜

 

 ただそうすることが、己の存在する意義なのだと主張するように。

 想いを乗せて、どこまでも。どこまでも。

 

 唐突に演奏が止み、そこにはいくらかの調べの残響と、後に静寂が舞い降りた。

 

「始まってしまいます。“運命に翻弄されし者たち”の饗宴が。神よ、もう私にはどうすることもできません……。どうか、あの子らを見捨てないでくださいませ……。どうか、あの子らを見守っていてくださいませ……。こんなことを言う資格は私(わたくし)にはありませんが、それでも……。それでも、祈らずにはいられないのです」

 

 今この刻から、運命の歯車は廻り出す。くるくると。くるくると。

 

そう。

              狂々(くるくる)と。……狂々と。





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