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八十八の黒白鍵から紡がれる音。それが誰かのための調べであることは明白だった。
だって、ピアノの前には黒い棺が置いてあったから。
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けれど、それが誰のためのモノかは分からなかった。
だって、その棺には誰も入ってなかったから。
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それなのにピアノは歌い続ける。
弾き手の想いを受け止めて。
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ただそうすることが、己の存在する意義なのだと主張するように。
想いを乗せて、どこまでも。どこまでも。
唐突に演奏が止み、そこにはいくらかの調べの残響と、後に静寂が舞い降りた。
「始まってしまいます。“運命に翻弄されし者たち”の饗宴が。神よ、もう私にはどうすることもできません……。どうか、あの子らを見捨てないでくださいませ……。どうか、あの子らを見守っていてくださいませ……。こんなことを言う資格は私(わたくし)にはありませんが、それでも……。それでも、祈らずにはいられないのです」
今この刻から、運命の歯車は廻り出す。くるくると。くるくると。
そう。
狂々(くるくる)と。……狂々と。
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